ストレス関連疾患(心身症)
心身症について
- 心身症とは、身体疾患のうち、発症の変化や病状変化と心理社会的要因(ストレス)との間に時間的関連性(心身相関)が認められるもの。
- 心身相関を支えるメカニズムには、身体の内部環境を一定に保つ機能に関与している脳、自律神経系、内分泌系、免疫系などがある。
- 心身症は心の病とは異なり、目に見える形で異常が生じる場合(胃潰瘍、十二指腸潰瘍など)と、筋肉や内臓の緊張・運動といった機能システムに異常が起こる場合(緊張型頭痛、過敏性腸症候群など)とに分けられる”身体疾患の病態”を意味する。
- 心身症に影響を及ぼす要因として心理社会的因子というものがあるため、職域を中心とした社会的側面の要因(仕事に関連したストレス)が重要な位置を占める病態といえる。
労働者にみられる主な心身症
過敏性腸症候群
- 潰瘍やポリープ、癌などの病変がないのに、腹痛を伴う下痢や便秘などの症状が現れる大腸の疾患。
- 消化管の運動機能異常と、腸が拡張した際に痛みを感じやすいことが要因。
- タイプは3つに大別される。
- 下痢型:職場の緊張する場面や出勤途中に現れやすい。大腸全体が微細にけいれんしている状態。
- 便秘型:けいれん性便秘といわれ、便は固い塊。肛門に近い部位の大腸が強く収縮し、便の通過を妨げている状態。
- 下痢と便秘の交替型:不安定型。
- 腹痛の他の症状に、食欲不振、悪心・嘔吐、胸焼け、胸部不快感、頭痛・頭重(ずおも)、めまい、息切れ、不眠、易疲労感(いひろうかん)などが認められることもある。
- 不安感、抑うつ感、意欲低下などの精神症状を合併することもある。
- 症状のために、長時間通勤(途中何度もトイレに行く、急行に乗れないなどのため)、遅刻や欠勤につながることも多い。
- 長期化しないうちに専門医による薬物治療や精神療法を受けることが必要。
緊張型頭痛
- 頭を強く締めつけられているように感じる頭痛。
- ズキンズキンと痛む拍動性ではなく、ジワジワとした連続的な痛み。
- 日常生活が若干制限されるが、寝こむほどではない。吐き気もない。
- 診断の際、脳腫瘍、脳血管性疾患、その他内科的疾患、耳鼻科的疾患などによる頭痛を除外することが必要。
- 対処としてはリラックスしたり、入浴や軽い運動が有効。
- 筋緊張を緩和する薬物を使用することもある。
- それでも改善しない場合は、心理療法(認知行動療法)が有効なこともある。
- 心理療法では、痛みに伴う行動(頭が痛いから出勤できない、頭痛がひどいから何もできない)に関連した誤って身についてしまった考え方やイメージを修正し、”痛み行動”の改善を図る。
摂食障害
- 食事や体重に対する常軌を逸したこだわりが見られる。
- 太ることに対する恐怖感が特徴的である。
- 思春期から青年期にかけた女性に多く見られる疾患である。
- 神経性食欲不振症(いわゆる拒食症)と神経性大食症(いわゆる過食症)に大別される。
神経性食欲不振症
- やせたいという強い願望や太ることを極端に恐れる気持ち(肥満恐怖)が特徴。
- やせていても太っていると思い込み、食事をとらなかったり、食べたものを吐いたり、下剤を乱用したりする。
- 極端にやせているのに、活動性はむしろ高く、休まなかったり残業を続けたりする。
神経性大食症
- 大量の食べ物を一気に食べ、直後に吐いたり、下剤・利尿剤を乱用して体重増加を防ごうとする。
- 体重は正常範囲内に維持されていることが多いものの、過食・自己嘔吐後は自己嫌悪に陥ることも少なくない。
- 発作的にリストカットなどの自傷行為が見られるケースもある。
心身症に関する具体的な対策
心身症は
- なかなか治らない消化性潰瘍や気管支喘息
- コントロールがなかなかうまくいかない糖尿病や高血圧症
- 慢性的な下痢や腹痛(過敏性腸症候群)
を引き起こし、職域においては、欠勤や遅刻などとして現れやすい。
また、心筋梗塞やくも膜下出血など、より重篤な疾患として起こることもある。
その際は、背景に職場要因がないか、次のような点で一度検討することが大切。
- 業務負荷は妥当か(時間外勤務が過剰になってないか)
- ストレス緩衝要因の中でも重要な直属上司を中心とした周囲スタッフからのサポート状態はどうか(もっと活用できないか)
こういった側面から早期に改善を図ることが重要。その際は、直属上司や産業保健スタッフなどに相談することが大切。
メンタルヘルス不調
メンタルヘルス不調について
メンタルヘルス不調とは、精神および行動の障害に分類される精神障害や自殺だけでなく、つぎのようなことを幅広く含むものをいう。
- ストレスや強い悩み、不安
- 労働者の心身の健康
- 社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的および行動上の問題
- 精神疾患のみならず、心身症や出勤困難、職域での人間関係上のストレスや仕事上のトラブルの多発、多量飲酒などを含めた心の不健康状態
労働者にみられる主なメンタルヘルス不調
うつ病
- うつ病は人口の2%~5%にみられる。
- 従来社会適応の良かった人に起こる傾向を認め、「憂うつな気分」「不安」「おっくう感」などが混在した状態になる。
- 初期症状として、全身倦怠感、頭重感、食欲不振などの身体症状がみられる。
- 身体症状だと考えて、診断が遅れ重症化することもある。=>仮面うつ病
うつ病の症状
- 朝の不調:朝早く目覚める、朝の気分がひどく重く憂うつ、朝刊を見る気になれない、TVもつける気にならない、出勤の身支度が大儀となる
- 仕事の不調:午前中仕事に取り掛かる気になれない、仕事の根気が続かない、決定できない、グルグルまわり状態、気軽に人と話せない、不安でイライラ、仕事をやっていく自信や展望がもてなくなる
- 生活の不調:以前は好きだったことがつまらなくなる、涙もろくなる、だれかに傍らに居てもらいたいと思うようになる、昼過ぎ~夕方になるまでは気分が重く沈む、いっそこのまま消えてしまいたいと考えるようになる
- 身体の不調:不眠、眠った気がしない、疲れやすい、だるい、頭痛、食欲低下、性欲減退、異性に興味がなくなる、口が乾く
うつ病の診断
特に「興味の減退」「快体験の喪失」(シャワーや入浴すら心地よさを感じない)が2週間以上継続し、これまで毎日何気なく繰り返してきた行為がつらくなりできなくなった場合、うつ病が疑われる。
うつ病の治療
- 休養と服薬による心理的疲労回復が治療の二本柱。
- 療養中は業務量の大幅な軽減、もしくは自宅療養・入院治療などの対処が必要。
うつ病になるきっかけ
- 従来、責任感が強く几帳面でまじめ、周囲の人に気をつかう、何かあると自分を責めてしまうといった傾向がみられていた。
- 対応としては、休養と服薬による心理的疲労回復が大半の事例で有効だった。
- 昨今では、雇用・労働環境の流動化を受け、若年層を中心に組織への帰属意識が希薄で、自己中心的で責任感が弱く、環境や周囲に問題を責任転嫁する社会的にやや未熟な性格傾向がある。
- 休職の際には復帰を急ぐのではなく先延ばしにする傾向が少なくない。
- 会社での適応期間に乏しく、現実問題への対処に行き詰まった結果、無力感・不満・怒りなどにより反応的にうつ病になることもある。=>新型うつ
新型うつの治療
- 従来の対応のみでは不充分。
- 睡眠覚醒リズムの確立に向けた生活指導。
- 帰属意識や役割意識を改善するような精神療法的対応。
- 従来のうつ病でみられる疲憊・消耗状態とは異なり、やる気がでない、疲れたなど仕事に対する意欲低下、さまざまな体調不良を訴える背景には、仕事に対する士気阻喪が認められるから。
- いたずらに長期間休養するだけでは病態が慢性化する危険がある。
統合失調症
- 10代後半から30代前半の若年者が発症しやすい。
- 妄想(実際にはあり得ない内容に断固たる確信をもち、どのような証拠に基づく説得を試みても訂正不能な思考内容や判断)
- 幻聴(自分の悪口が聞こえる、嫌な噂話が聞こえてくるなど)
- 幻覚・妄想などの目につきやすい症状(陽性症状)がいったん安定した後、コミュニケーション障害、意欲・自発性欠如、引きこもり傾向などが後遺障害(陰性症状)が残りやすい。
- 陰性症状のために、仕事に就きながら療養することが難しく、比較的長期の休職を必要とする。
- しかし、近年では、薬物療法が進歩したため、適切な病気療養環境が確保できるようになった。
- 職場において個々の回復の現場に合わせた場を周囲の理解と支援のもとに得られれば、安定した経過を持つ人も多い。
アルコール依存症
- アルコールは適度なら有益だが、節度を超えた飲酒は危険。
- つきあいでたまに飲む(機械飲酒)→毎日飲む(習慣飲酒)→飲み過ぎで思い出せない(ブラックアウト)。
- ブラックアウトがたびたび起こるようになると要注意。
- 毎日飲まずにはいられなくなる(精神依存)、アルコールが切れて手が震える・冷や汗・イライラ・眠れない(身体依存)が現れるようになる。
- 職場での問題行動→飲み会での逸脱行為、遅刻や欠勤、出勤時のアルコール臭。
- 治療としては完全断酒しかないが、難渋することが少なくない。
- 断酒継続のためには、家族・職場の協力、断酒会やAA(Alcohoklics Anonymous)といった自助グループへの参加・活動が不可欠。
- そうならない前の早期対処(アルコールとの節度あるつきあい)が重要。
パニック障害
- 突然起こるパニック発作(動悸、めまい、息苦しさ、非現実感など)が繰り返される。
- このまま死んでしまうのではないかという不安。
- 救急車で運ばれることもあるが、身体的検査をしても異常は見つからない。
- また発作が起きたらどうしようという予期不安。
- 電車に乗ったり、人混みに外出するのが困難(外出恐怖、広場恐怖)。
- 予後は良好、服薬は1年以上必要。
- 空腹、怒りなどの強い陰性感情、孤立感、疲労は症状悪化につながるため、生活習慣の是正も大切。
適応障害
- 適応と順応は違う。前者は能動的・主体的働きかけがある。後者は受身的。
- 広義の適応障害は、主体的に働くけれども不都合をきたしてしまう状態。
- 競技の適応障害は、DSMやICD10に定義されているもの。
- 適応障害ではストレッサーの軽減だけでなく、個人能力の向上も重要。
睡眠障害
- 睡眠障害は作業能率の低下、精神疾患、身体疾患を招く。
- 作業能率低下から生じる経済損失は日本で3兆円。遅刻や欠勤、事故による損失を加えると3兆5000億円。
- 早朝覚醒は、通常の2時間以上前に起きてしまい、その後眠れないこと。
- 不眠は誰にでも見られるものだが、それが週3で1ヶ月以上続いて社会生活に支障をきたすと不眠症と診断されることが多い。
- 過眠症は、日中に耐え難い睡眠発作と居眠り。夜眠れないから昼間眠いわけではない。ナルコレプシー。
- 頻回欠勤者は睡眠相後退症候群のことがある。
- 居眠りは重大な事故につながる。
メンタルヘルス不調に関する具体的な対策
- メンタルヘルス不調にはサインがある。
- サインがみられたら勤務やライフスタイルの改善を図る。産業保健スタッフ、事業場外の医師に相談する。
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