ストレスとは
ストレスとはストレッサーとストレス反応を合わせたものの総称。
ストレッサー
ストレッサーとは、職場や家庭での人間関係、長時間労働、過重な責任など個人にとって負担となる外からの刺激や要請のこと。ストレス要因。
ストレス反応
ストレス反応とは、ストレッサーによって引き起こされた以下のようなもの。
- 不安やイライラ感、不満や怒り、抑うつ気分などの精神症状
- 疲労感、食欲不振、胃痛、下痢、不眠などの身体症状
- 喫煙や飲酒量の増加などの行動の変化
ストレス反応が持続して症状として固定すると、うつ病、高血圧、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、冠動脈疾患などのいわゆる”ストレス病”になる。
一般的にはストレッサーとストレス反応を区別することなく単にストレスと呼ぶ。
ストレスが多い→ストレッサーが多い。
ストレスでイライラする→ストレス反応。
ストレスによる健康障害のメカニズム
ストレッサーに直面したときに生じるストレス反応と、これが持続して健康障害が起こる過程。
大脳皮質-大脳辺縁系-視床下部
- ストレッサーに直面すると、これまでの経験に基づいて、その負担の大きさや困難性、苦痛の程度などが大脳皮質で評価される。
- これらの情報は大脳辺縁系(感情の中枢)に伝達されて、不安や不満、怒り、悲しみなどの感情を引き起こす。ストレス反応を軽減するための何らかの行動(ストレスコーピング)も引き起こす。
- 大脳辺縁系で感情を生じさせた刺激は、視床下部に伝えられて、自律神経系、内分泌系、免疫系のストレス反応を引き起こす。
ストレッサーに直面して生じるさまざまな感情は脳内の神経伝達物質によって引き起こされる。神経伝達物質は、不安や抑うつ気分、意欲、活動性などと密接に関係している。神経伝達物質の産生や伝達が傷害されると、うつ病や不安障害などのメンタルヘルス不調が生じる。
内分泌系
ストレス状態で、視床下部にある内分泌系の中枢が活性化されると、脳下垂体、副腎皮質系を刺激するホルモン類が産生される。
これらのホルモン類には糖の産生の促進、胃酸分泌促進免疫能の抑制作用がある。したがって、糖尿病や胃潰瘍、十二指腸潰瘍の発症を促進し、感染症にかかりやすくなる。
アドレナリン
- ホルモンのうち、アドレナリンは強いストレス状態のときや不安を感じる状況で分泌される。
- 血圧や心拍数の増加、血液凝固の促進、中枢神経覚醒作用などの作用がある。
- そのため、高血圧や狭心症、心筋梗塞、不整脈、脳卒中などの原因となる。
- 中枢神経系を興奮させるので不眠の原因にもなる。
自律神経系
- 自律神経系の中枢も視床下部にある。感情の中枢である大脳辺縁系とは距離的にも近く、多くの神経ネットワークで連絡されている。
- 怒りや不安を感じるときに動悸がしたり、抑うつ気分のときに食欲がなくなるのは、感情と自律神経系が密接に関連しているから。
交感神経系と副交感神経系
- 自律神経系には交感神経系と副交感神経系がある。身体諸器官はこの両者の支配を受けている。
- 強いストレッサーに直面すると、交感神経系が優位になり、アドレナリンが血中に放出される。これにより上記の作用が現れる。
- 副交感神経系は、睡眠や休息時、食後などエネルギー補給の際に優位になる。一時的に興奮した交感神経系を抑えバランスをとる働きもある。
- 副交感神経系は消化器の機能も調整している。胃潰瘍や下痢、腹痛、便通異常などを特徴とする過敏性腸症候群の発生にも関係している。
免疫系
- 免疫系は感染、癌の発生などに関与している。
- 過労や睡眠不足、心理的葛藤などのストレス状態が長く続いたときに、感冒、ヘルペス、慢性扁桃炎、う歯(虫歯)にともなう周囲炎など、通常は免疫で抑えられている病気が悪化する。
- ストレス状態では癌の成長が促進される。
- ストレス反応時に分泌されたホルモンの一部が、免疫反応を担うリンパ球やナチュラルキラー細胞(NK細胞)の働きを抑えるから。
内分泌系、自律神経系、免疫系の異常がストレス病を招く
- 内分泌系、自律神経系、免疫系は生命を守り、通常の身体活動を維持するのに必要な機構。
- しかし、急性の強いストレス、持続的な慢性ストレス状態では、内分泌系、自律神経系の機能が亢進し、免疫系が抑制され、身体のバランスが保たれなくなる。
- そのため、さまざまな病気が発生する。→ストレス病。
産業ストレス
産業ストレスの背景
- 産業・経済のグローバル化、技術革新・情報化の進展による企業間競争の激化。
- 経営効率を上げるため、リストラクチャリングやダウンサイズを進める。
- 年功制や終身雇用制を廃止して成果主義を導入。
- 少子化、高学歴化により個人主義傾向が強くなった。
- 対人関係のスキルが不足した若年労働者の増加。
これらの背景により新しいマネジメント体制が必要になっている。
仕事に関するストレスについてのデータ
- 2007年の厚生労働省の「労働者健康状況調査」仕事に関するストレスを自覚している→58.0%
- 自殺者総数1998年~2011年までは3万人を超えた。
- 被雇用者・勤め人の自殺件数も7千人を超えている。
- 業務による精神障害の労災申請件数および認定件数は年々増加。2011年度は1272件、325件。
- 一方、脳・心臓疾患(いわゆる過労死)は898件、310件。
職場のストレス要因
- 仕事の質・量の変化(仕事内容の変化、長時間労働、IT化など)
- 役割・地位の変化(昇進、降格、配置転換など)
- 仕事上の失敗・過重な責任の発生(損害・ペナルティーなど)
- 事故や災害の発生(自分や周囲のケガ、損害など)
- 対人関係の問題(上司や部下、同僚との対立、いじめ、ハラスメント)
- その他(交代制勤務、仕事への適性、職場の雰囲気、コミュニケーション、努力に対する報酬の不均衡など)
研究開発部門、システムエンジニア、企画、販売部門で働く人の質的・量的労働負荷が増える傾向になる。
ハラスメント
パワーハラスメントの定義
厚生労働省のワーキンググループが作成したパワーハラスメントの定義。
職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(※)を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。
※上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる。
パワーハラスメントの分類
内容によって次のように分類される。
- 暴行などの「身体的な攻撃」
- 暴言などの「精神的な攻撃」
- 無視などの「人間関係からの切り離し」
- 実行不可能な仕事の強制などの「過大な要求」
- 能力とかけ離れた難易度の低い仕事を命じるなど「過小な要求」
- 私的なことに過度にたち入る「個の侵害」
精神障害の労災認定基準にも職場のいじめや嫌がらせ、セクシャルハラスメントに関する記載がある。
職業性ストレスモデル
職業性(産業)ストレスモデルには多くのものがあるが、最も包括的なモデルは、米国率労働安全衛生研究所の職業性ストレスモデル。
- 「職場のストレッサー」によって個人に心理的負担がかかると、何らかの「ストレス反応」が出現する。
- 職場のストレス要因が非常に強い場合や職場以外のストレス要因を含め、いくつか重なったとき、あるいは長期にわたって持続して個人が耐えられる限界を超えたときに、何らかの「健康障害」が発生する。
- ストレス反応の強さは、年齢、性別、性格や行動パターン、自己評価などの「個人的要因」や、家族からの欲求などの「仕事以外の要因」の影響を大きく受ける。
- 上司や同僚、家族など周囲からの支援はストレス反応や健康障害の発生を防ぐ「緩衝要因」になる。
- 健康障害としては、うつ病や適応障害などのメンタルヘルスに関係した疾患、高血圧や脳卒中、心筋梗塞などの脳・心臓疾患などがある。
- 最悪のケースが過労自殺や過労死であるといえる。
職場のストレッサー
- 職場環境
- 役割上の葛藤、不明確さ
- 人間関係、対人責任性
- 仕事のコントロール
- 仕事の量的負荷と変動性
- 仕事の将来性不安
- 仕事の要求に対する認識
- 不充分な技術活用
- 交代制勤務
個人的要因
- 年齢、性別
- 結婚生活の状況
- 雇用保証期間
- 職種(肩書)
- 性格(タイプA)
- 自己評価(自尊心)
仕事以外の要因
家族、家庭からの欲求
緩衝要因
上司、同僚、家族などからの社会的支援
急性のストレス反応
- 仕事への不満、抑うつなどの心理的反応
- 身体的訴えなど生理的反応
- 事故、薬物使用、病気欠勤などの行動化
健康障害、疾病
- 仕事に基づく心身の障害
- 医師の診断による問題
職業性ストレスモデルは、職場のストレスと病気の発生の関係を総合的に理解するうえでも、職場のメンタルヘルス対策を進めていくうえでも参考になる。
職業人としてのライフサイクルとストレス
新入社員、若年労働者のストレス
- 学生生活から一転して、会社から給与をもらい、上司や同僚と協働で責任ある仕事を遂行することになる。
- 協調性や役割の遂行、責任が求められ、人間関係や役割に伴う葛藤が生じる機会が増える。
- 仕事の適性の問題や給与や処遇に対する不満などから、早期で退社することも多い。(大卒者で約37%、高卒者では約50%が3年以内で転・退職)
- 一部では自己愛が強く、協調性や忍耐力が乏しく、上手くいかなかった時に他人のせいにする傾向が強い。
- 人格的に未成熟で仕事上の役割や人間関係の問題で容易にメンタルヘルス不調に陥り、休業することも多い。
- これらの特徴を把握したうえで企業人としての教育育成が必要になってくる。
- 親からの自立、異性との交際などに伴うストレスも多い。
- 精神的成長が促される時期。
青壮年労働者のストレス
- 第一線の担い手であり、中堅社員としての仕事の負担が増え、過重労働が問題になりやすい年代。
- 昨今は管理職が若年化していて、30代でも自分自身の仕事の他に、部下の仕事のマネジメントも求められるプレイングマネージャーが増えている。
- メンタルヘルス不調や自殺の発生頻度が高くなっている。
- 中途採用されることも少なくない。→社風や仕事の進め方、評価制度の違いに対する戸惑いや不満、人間関係の問題が発生しやすく、メンタルヘルス不調に陥りやすい。
- 移籍した労働者、受け入れる企業の双方に問題への考慮、対策が必要。
- 家庭を持つ人も多く、家庭における役割を担うことになる。家庭はストレスの緩衝要因にもなり、逆に促進要因にもなる。→家庭円満がストレス対処のうえで大切。
中高年労働者や管理職のストレス
- 体力、記憶力、適応力が低下し、心身の衰えに直面する。経験や実績により指導的立場につくことが多い。
- 管理職になった人は、業績が上がらない、仕事内容が変わり不慣れでうまくやれない、部下を指導・管理することができないなどの理由でストレスを感じ、メンタルヘルス不調に陥る事も多い。
- 管理監督者は部下の業績管理やメンタルヘルス不調を早期発見・対処する立場にある。その一方、自分自身の健康管理にも配慮する必要がある。
- 家庭では、子供の受験、進学や卒業、自立に伴う問題や親の介護などにともなうストレスも増える。家族内での分担や協力が必要。
高年齢労働者のストレス
- 定年の引き上げや継続雇用制度の導入や、労働力不足や技術の継承が問題になり、定年後の再雇用、定年延長による高年齢労働者が増えている。
- この世代の就労意欲に関する国際比較調査では、先進国で日本が最も高い。一方、給与や処遇に関する改善要求も高い。
- 反射神経機能や記銘力(新しいことを覚える)、想起力(記憶したことを思い出す)は低下。
- 流動性知能(情報を獲得し処理する能力)は40歳をピークに低下する一方、結晶性知能(知識や経験を生かして総合的に判断する能力)は80歳になるまで上昇を続ける。
- 高年齢労働者の特性を考慮した職務設計と処遇を考えること、そして高年齢労働者自身とその管理者、双方に対する教育研修を行うことが必要。
- 体力の衰えや持病、親の介護や親族の死などに伴うストレスも増えている。自分自身の心身の健康管理が一層必要になる。
ストレスの基礎知識関連ページ
- メンタルヘルスの基礎知識
- メンタルヘルスの基礎知識を紹介します。
- 心の健康問題の正しい態度
- 心の健康問題の正しい態度を紹介します。